幌交換をさせて頂いたお客様から一番よく質問があるのが、
「幌のコーティングはしたほうがいいのか?」ということです。
結論から申し上げますと、ズバリ、個人的には「コーティングは不要」と考えております。
ではまず、そもそも幌のコーティングとはなんなのか?というところから考えていきますと、
たいていの場合「撥水・撥油&紫外線カット」が主目的となっております。
「撥水・撥油」の意味は、要するに汚れの付着防止です。
が、しかし、アクリル繊維は基本的に繊維そのものが汚れによって染まることはありません。
繊維の間に汚れが入り込んでいるだけですから、洗えばそれなりに落ちます。
そもそも、
黒やダークブルー、ブラウンなど、
濃い目のカラーの場合、汚れはほとんど目立ちません。
気になるような汚れが付着することはごく稀です。
逆にタンやベージュなど、薄いカラーであれば、汚れは結構目立ちます。
だいたい黒ずんで薄汚れた感じになってきますので、
それが予防できるのであれば、コーティングする価値はあるかもしれません。
しかしコーティングによって完全に防げるかと言うと、全然そんなことはありません。
何をしたって、それなりに薄汚れてきます。
一方、
「淡い色の幌にコーティングをしたらムラになってしまった」
という話も数件寄せられております。(特に筆塗りタイプ)
もちろん、施工の仕方が悪かっただけかもしれません。
しかし、幌のコーティングなんてほとんどの人は素人ですので、
同じように失敗する可能性は否定できません。
基本的に一回失敗したらもうアウトです。(見た目上は)
どうしてもやりたかったら、スプレータイプのものにしたほうがいいでしょう。
ただし、経験上、塗り込みタイプのほうが耐久性はあります。
次に「紫外線カット」
これについてはどうでしょう。
私は仕事柄、これまで非常に多くの劣化した幌を見てきました。
確かに何の手入れもなしに屋外に十数年間置かれていた車両の幌は、
紫外線の影響なのか、生地の柔軟性が損なわれ、容易に切れたり割れたりする状態になっております。
具体的に申し上げますと、ゴルフ3やゴルフ4のカブリオレです。
あの辺りはだいたい発売から15~20年程度経過しておりますので、
素材そのものの経年劣化がかなり進んでいるケースが多いです。
パッと見はきれいでも、幌交換をしようと幌を開けたらパリっと割れた、なんてこともよくあります。
それでは、もしこの劣化がコーティングによって防げたら、素晴らしい、でしょうか?
じゃあ例えばですね、新車から15~20年間、
ひたすらコーティングをし続けて、紫外線による劣化がいくらか防げたとしましょう。
いくらか防げたとして、
その間のコーティング代、果たしていくらかかるでしょうか?
通常、幌用のコーティングはフッ素系がメインなので、たいてい非常に高いです。
安くても1本3,000円からといった感じです。
この一本で塗れる回数は幌のサイズや塗る量にもよりますが、だいたい2~3回くらいです。
一方耐久性は、外に置いていたら2~3ヶ月もつかどうか。
とまぁこんな感じですので、1年で数千円~1万円程度は確実にかかるでしょう。
さぁ、この調子で10年経ったらいくらですか?15年経ったらいくらですか?
そもそもそんなにお金を掛けて大事に手入れして、10年後、15年後にまだ乗っていますか?
幸いにして10年以上乗り続けるほど気に入っているのであれば、
もう一回幌を新品に換えたほうがよくありませんか?
ということです、私が言いたいのは。
別にもう一回幌交換を依頼して欲しくて言っているのではありませんよ。
その気になれば、コーティング剤を推奨・販売して、小銭を稼ぐことだって出来るのです。
さて、ここで問題です。
幌が劣化する一番の原因は何でしょうか?
別のトピックスを読んでくださった方はもうお分かりだと思いますが、
ずばり「幌を開けること」です。
幌の生命力(HP)が1000Pだったとしましょう。
紫外線の攻撃力は年間60~70Pくらいでしょうか。
この仮定でいくと、紫外線のダメージだけでだいたい15年後くらいには寿命を迎えます。
そこで、紫外線劣化を防ぐために、コーティングをしました。
コーティングの防御力は年間10~20Pだとします。
これにより、寿命が20年近くにまで延長されました。
別に30年、40年だっていいですよ。
さて、あたなは生粋のオープンカー乗りです。
大好きなオープンカーで毎日通勤できるという恵まれた環境にいるあなたは、
雨さえ降ってなければ、朝も帰りもオープン走行を楽しみます。
幌を一回開けるごとに、幌は1Pのダメージを食らいます。
朝晩2回で合計2Pです。
雨の日以外、年間200日くらいはオープン走行を楽しみます。
すると2P×200で年間400P。
1000÷400=2.5
なんと、2.5年間で寿命を迎えてしまいます。
これは極端な使用例ではありますが、ダメージ自体は決して大げさな話ではありません。
かなりリアルな数値であると考えてよろしいかと思います。
ひたすら開閉しまくったら、幌の寿命なんて本当にそんなものなのです。
コーティングなんか全然関係ないじゃん、というレベルですね。
逆に、「僕はほとんど開けないよ~」という方は、
15年、20年後、いくらかコーティングの恩恵にあずかれるかも知れません。
その間にいくら消費したかについては目をつむりましょう。
ちなみに、私(店長)自身は、自分の車の幌にコーティングは一切しておりません。
洗車はだいたい1週間に1回くらいの頻度で行っておりますが、
幌は1ヶ月に1回くらいしか洗いません。
しかし、見た目はいつもだいたい綺麗です。
ボディが汚れていても、幌はそれほど汚れていない(ように見える)のです。
なぜ幌だけは汚れないのか?
それは、幌が全く撥水していない状態のため、
ホコリが実にキレイに、均一に降り積もっており、汚れていることが分からないのです。
片やボディのほうは一応撥水コートのようなものをしてありますので、
ホコリが付いて、そのあと雨が降ると、ご存知の通り水玉状に汚れが残り、
見た目が実に残念なことになるわけです。
幌だって同じです。
撥水していると、雨が降った後、残念な感じに汚れが残ります。
綺麗にしたくてコーティングしたのに、かえって汚い。
まぁ、その都度洗えばいいんですけど、めんどくさいじゃないですか。
というわけで、話が少々脱線気味になりましたが、要するに、
・コーティングによって確かに劣化や汚れは多少防げるけども、
それ以上に、幌の開閉によるダメージのほうがはるかに大きい。
・劣化防止の効果があったとしても、それが見えてくるのはかなり先である。
・それまでにかかる金額を考えたら、費用対効果は甚だ疑問である。
ということなのであります。
もちろん、世の中、お金に糸目をつけない方や、
水玉が出来るのが大好きなんだ、という方もいらっしゃいます。
そういう方々を否定するつもりは毛頭ございません。
ただ経済的観点から個人の見解を述べたまでです。
人それぞれ考え方は違いますので、より多くの情報を得て、咀嚼し、
自分の理念にあった見解を導き出していただければ幸いです。